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2022.2.23

オープンイノベーションとは?定義や取組み事例を紹介!

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近年では、デジタル化やグローバル化などによってビジネス環境は常に変化に晒されています。市場予測が難しくなったなかでも、企業は絶え間なく変化する消費者ニーズに応えられるだけの競争力を養っていかなければなりません。

「オープンイノベーション」は、企業をはじめとしたさまざまな組織が現代のビジネス環境に対応し、持続的に成長するための画期的な取り組みとして注目を浴びています。

  • オープンイノベーションの定義を改めて知りたい
  • オープンイノベーションが求められる背景やニーズを知りたい
  • オープンイノベーションのメリットやデメリットを知りたい
  • オープンイノベーションのタイプを知りたい
  • オープンイノベーションの好事例を知りたい

当記事では、オープンイノベーションの定義や日本企業での浸透状況から、メリットや事例まで幅広く紹介します。

オープンイノベーションとは

オープンイノベーションとは、社外からのリソースを活用した新たなビジネスモデルの創出を意味します。具体的には、新たな技術やアイデアを募集・集約し、革新的な新製品(商品)・サービス、またはビジネスモデルを開発するイノベーションを指します。

プロダクトライフサイクルが短期化したことにより、企業は次々と新商品を開発することが求められています。そんななか、既存のビジネス路線の規定にしばられないユニークな研究手法のひとつとして、オープンイノベ―ションは注目を集めています。

オープンイノベーションという言葉自体は、2003年にハーバード大学経営大学院の教授であったヘンリー・チェスブロウによって提唱されたものです。

ヘンリー・チェスブロウはオープンイノベーションを「目標達成のための知識のインフローとアウトフローを活用して組織内部のイノベーションを加速させ、イノベーションそのものの組織外部を活用することによって市場を拡大する」と定義しています。

アメリカの大学を中心に研究が進み、シリコンバレーのベンチャー企業でオープンイノベ―ションは広がっていきました。今ではベンチャー企業のみならず、大手のメーカーなどでもオープンイノベ―ションは浸透しています。

オープンイノベーションとクローズドイノベーションとの違い

オープンイノベーションの特徴を把握するためには、反義語であるクローズドイノベーションと比較すると理解が進みやすいでしょう。

クローズドイノベーションとは、製品開発や技術改革、研究開発や組織改革などにおいて、必要とされる技術や知識を、自社のリソースのみでまかなうことです。

従来型の日本のメーカーは、クローズドイノベーションに強く固執する傾向にありました。しかしクローズドイノベーションだけでは業績が伸び悩む企業が増えたことで、部分的ではあるもののオープンイノベ―ションの優れた点を取り入れる企業も増えてきました。

オープンイノベ―ションとクローズドイノベーションの概念やスタンスの違いは以下の通りです。

オープンイノベ―ション クローズドイノベーション
考え方 良いものはどこにでもある 自分たちでやらねばならない
イノベーションの存在場所 組織の境界を越えて存在する 社内に限定する
顧客のスタンス 協働者と位置付ける 受動的な受け手と位置付ける
従業員の機動性 機動力は高い 機動力は低い
外部資本の関与 重要と位置付ける 重要ではない
R&Dの役割 社外のR&Dと社内のR&Dは同じくらい機能している 社内のR&Dのみが機能している
ビジネスモデルの重要性 市場のポジションより、より良いビジネスモデルを作ることが重要と捉える 市場に最初にアイデアを投入することが重要と捉える
知的財産 社内に限定されず、社外のサードパーティーが所有することもある 社内に限定し、守るものと位置付ける

オープンイノベーションが求められる背景

オープンイノベ―ションが必要となった背景のひとつとして、昨今のビジネスにおけるプロダクトライフサイクルの短期化が挙げられます。

ビジネスのグローバル化によって、どんな老舗企業であっても市場の競争からは免れることはできません。変化が激しい環境においては、次々と新しい製品・サービスを作る必要性が迫られています。

そのため、企業は従来とは比較にならないほど迅速な研究開発が求められるようになりました。これまでのクローズドイノベーションでは速やかな研究開発に対応しきれないため、オープンイノベーションが普及していきました。

オープンイノベーションを行えば、自社の枠組みを超え、新たな技術や知識を外部から集約できます。速やかに新たな製品・サービスの創出が迫られている業界ほど、オープンイノベ―ションに積極的な企業が多いです。

製品やサービスの短命化がおきているうえ、企業競争が世界規模になったことで世界中の企業が生き残りをかけてしのぎを削っている状況で、オープンイノベ―ションに注目が集まるようになりました。

オープンイノベーションの日本での取り組み

日本の企業は、既存事業を着実に成長させていくことが得意である一方で、スピーディーに新規事業を立ち上げるような動きが苦手だといわれています。

グローバル競争のなかで、国内外のベンチャーなどの新規参入企業が斬新なアイデアを市場投入するケースが増えてきました。その新興勢力に対抗する目的で、新規事業開発の重要性やこれまでと同じ方法では殻を破ることができないことを、多くの日本企業が認識し始めていったのです。

『日本企業のオープンイノベーション取組み状況実態調査』によると、オープンイノベーションに取り組む目的は、「既存事業の周辺領域での新規事業立ち上げ」が7割以上で最多となっています。まずは取り組みやすい既存ビジネスでオープンイノベ―ションが広がっている状況がうかがえます。

ただし、日本企業でオープンイノベーションに従事する297人を対象に調査が行われていますが、オープンイノベーションに従事する社員の人数は「10名以下(32%)」「50名以下(40%)」で、50名以上は3割に満たない状況にあります。

【出典:『日本企業のオープンイノベーション取組み状況実態調査』

徐々に日本でもオープンイノベ―ションの重要性は理解されつつあるものの、実際に専任でオープンイノベ―ションに従事する企業はまだまだ少数といえます。

オープンイノベーションのメリット

オープンイノベーションを進めるうえで、代表的なメリットといわれている点を紹介します。

技術リソースの獲得

オープンイノベーションを効果的に利用することで、自社にない新たな知識や技術を獲得することができます。

自社と他社の知識やスキルなどのリソースを上手く補完し合うことによって、新たな技術確認が進み、イノベーションの創造が期待できるでしょう。

技術リソースを獲得することは、一時的な効果に留まりません。ひとつの技術が複数の事業に応用できる可能性があるため、中長期的な企業の競争優位性の向上にも技術リソースは貢献します。

新たな価値観やアイデアを生み出すためには自社にない技術リソースの獲得は必須ともいえるため、オープンイノベーションを進めるメリットになるでしょう。

コスト削減

オープンイノベーションのメリットとして、低コストで開発案件が推進できる点が挙げられます。

現代のビジネスでは、プロダクトライフサイクルの短期化により、スピーディーかつ低コストで新製品・サービスを開発する必要性が高まっています。オープンイノベーションは外部から知識や技術を集約できるので、クローズドイノベーションよりも遠回りなようでいて、結果的にコストを抑えた商品開発と市場提供が行えるのです。

コスト削減は研究開発やプロダクトに留まりません。他社の持つ強みを獲得し自社の強みと組み合わせることで、結果的に人的コストの削減にもつなげられるケースが多いです。

スピードアップ

オープンイノベーションは開発の短期化の実現のみならず、事業全体の推進のスピードアップにもつなげられます。

オープンイノベーションで外部から知識や技術を取り入れると、自社のみで行うより調査や研究にかかる時間が削減できます。その結果、新たな製品・サービスの生産性が向上し、先行者利益を得られる事業がスピーディーに立ち上げられます。

オープンイノベ―ションによる短期間の事業立ち上げプロセスのノウハウは、スタックしがちな既存事業の立て直しの参考にもなるはずです。

オープンイノベーションの課題

オープンイノベーションを進めるにあたって、デメリットや課題となる点を紹介します。

収益配分の難しさ

オープンイノベーションでは、自社、他社、大学や地方自治体などのさまざまな分野、規模の組織が協力して開発に取り組むプロセスが特徴です。

複数の参加者がいる分、収益が生まれた際に配分を決めるのが難しい場合もあります。とりわけ最初は事業化を狙っていなかったケースなどでは、配分が曖昧なまま開発が進められます。収益化してから配分を決めようとすると、思わぬトラブルにも発展しかねません。

参加者それぞれの貢献度やコスト負担の割合などは、あらかじめ明確化できるようにしておく必要があります。

また、複数企業が協力し合う経営スタイルを「アライアンス」といいます。アライアンスについては以下の記事にて詳しく解説しています。

▼関連記事

アライアンスとはどういう意味?M&Aとの違いについても解説

アイデアや技術の漏洩リスク

他の企業や大学、地方自治体と協力体制を取り、チームを組んでイノベーションの創出にあたるということは、自社の持つ技術、ノウハウ、アイデアを外に持ち出すことも意味しています。

なかには、技術や知的財産を盗用・獲得するためにオープンイノベ―ションを持ちかける悪意があるケースもありえます。

企業の資産ともいえる技術情報を流出させてしまうことについては、リスクがあるという認識を持って、アライアンス先の審査を行うようにしてください。

自社開発力の衰退

外部から取り入れる新たな技術に依存しすぎることで、自社の開発力の低下・衰退につながってしまう恐れもあります。

オープンイノベ―ションによる技術獲得は自社に恩恵はあるものの、完全に自社にトレースできるものとは限りません。あくまで一時的な技術獲得という認識を持ち、自社の開発力を強める努力は行う必要があります。

とりわけ事業のコア領域は自社の競争力の要となるため、オープンイノベーションとクローズドイノベーションの範囲を明確に分け、自社に開発力を残せるように取り組む必要があります。

オープンイノベーションのタイプ

オープンイノベーションが起こる時には、融合のきっかけとなる事項にさまざまなケースがあります。ここでは、オープンイノベ―ションの代表的な5つのタイプを紹介します。

人材

オープンイノベーションが人材起因の場合とは、社内・社外を問わず多様で優秀な人材がきっかけになるケースです。

経営資源には、「ヒト」「モノ」「カネ」、そして「情報」(知的財産)などの無形資産があります。その中のひとつの「ヒト」すなわち人材が交流することで起こる化学反応は、オープンイノベーションにとって欠かせない要素といえます。

最近はオープンイノベ―ションのために、他社との定期的な人材交流や人材留学などを実施する企業もあります。オープンイノベ―ションだけではなく、人材開発・育成の面でも効果的な取り組みといえるでしょう。

アイデアやマインド

オープンイノベーションのアイデアやマインドとは、社内外を問わないあらゆる場所にあるアイデアやマインドを見逃さず、収集し、活用することを意味します。

シリコンバレーで生まれたハッカソンは、アイデアやマインドによるオープンイノベ―ションの好事例です。ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を掛け合わせて造られた造語で、ITエンジニアやデザイナーなどが集まってチームを作り、特定のテーマに対してそれぞれが意見やアイデアを出し合うことです。

利害や会社の枠にとらわれず積極的に情報を共有し合って、革新的なイノベーションを創造するためには、柔軟なマインドは不可欠な要素といえます。

知的財産

オープンイノベーションの知的財産とは、社内で保有している知的財産を、自社だけでなく他企業の知的財産を相互に活用することや有益な知的財産の活用によって、新たな知的財産やビジネスモデルを構築することです。

イーロン・マスク率いるテスラ社がかかえていた電気自動車関連の特許を、公開してオープンソース化した事例などがこのタイプに該当します。特許よりも、素早くイノベーションを起こすために電気自動車の車載技術を担うソフトウェアのソースコードを他社にオープンしたのです。

知的財産は企業内に留める傾向が強いですが、新たな市場開拓の視野を持った場合には、積極的に外部に開示するスタンスも必要となります。

研究

オープンイノベ―ションの研究とは、研究や開発段階の内容を他社と交流させ、新たな研究に発展させる取り組みです。

ここでいう交流は「社内外を問わない研究」「自社だけでなく、他団体や組織などの研究開発内容を考慮する」「さまざまな研究内容をもとに、新たな価値を創造する」などが代表例となります。

とりわけメーカーが多い日本の企業においては、研究開発部門が人や予算を潤沢に持つことが多いです。そのため研究開発を起因として新たな製品・サービスを世に送り出すオープンイノベーションは事例として増えつつあります。

市場

オープンイノベーションの市場とは、前述したオープンイノベーションのタイプである「人材」「アイデアやマインド」「知的財産」「研究」を活用して開発されたサービス・製品を出すための、新たな市場のことを指します。

新しい市場が生まれた際は、市場をオープンにしてさらなる他社の参入や交流を起こすことで、次なるオープンイノベーションが生まれる可能性が高まります。

オープンイノベーションの事例

オープンイノベ―ションを起こした事例はセンセーショナルなものが多く、世間で話題になりやすい傾向があります。ここでは過去のオープンイノベ―ションの代表的な事例を紹介します。

東レ株式会社

合成繊維・合成樹脂をはじめとする化学製品や情報関連素材を取り扱う大手化学企業の東レ株式会社では、研究開発を行うE&Eセンターという組織があります。

E&Eセンターでは、太陽電池部材やリチウムイオン電池部材のオープン・イノベーションを促進しており、新たな事業創出を目指しています。

さらにE&Eセンターの環境・エネルギー開発センターでは、次世代のエネルギー分野(太陽・燃料電池など)でのイノベーションも創造しています。

研究開発部門がオープンイノベ―ションを牽引している、日本の強みを生かした事例といえます。

参照:オープン・イノベーションとは?メリットや課題・問題点と導入事例も!

株式会社デンソー

自動車部品業界では国内最大手である株式会社デンソーは、量子アニーリングマシンを東北大学と共同研究しています。

デンソーはもともと国内外に研究開発拠点を設け、次世代モビリティサービスの研究開発を進めていることで有名です。

2019年11月には、アニーリング型と呼ばれる量子コンピュータの活用方法について東北大学と共同研究を行い、工場内の無人搬送車の効率的配送技術を発表したことで注目を集めました。

参照:「量子アニーリングミニシンポジウム」を開催! | News | オープンイノベーションアリーナ | 京セラ

P&G

アメリカのオハイオ州に本拠を置く世界最大の一般消費財メーカーP&G社は、「Connect+Development(つなげる+開発する)」のコンセプトのもと、早い段階からオープンイノベーションに取り組んだ企業として有名です。

P&Gのイノベーションは、お客様起点であることと定義の幅が広いことが特色です。あえてオープンイノベ―ションのタイプを固定せず、概念として企業風土に溶け込んでいる点が強みといえます。

具体的なオープンイノベ―ションのプロダクトとして挙げられるのは、「プリングルズ プリントチップス」です。チップスの表面にキャラクターをデザインしたもので、イタリア人によって開発されたクッキーに絵や文字を印刷する食用インクジェット技術を応用しています。

参照:P&Gのウェブサイト 「コネクト + デベロップ」

オープンイノベーションの定義から実現までのポイント、成功事例を全てご紹介 – Customer Success

日産自動車

日本の大手自動車メーカーである日産自動車株式会社では「世界の智が集うオープンイノ

ベーションの拠点になること」を標ぼうしています。

日産では、自社が開発した独自技術を積極的に外部にアピールしたり、他企業に技術ライセンシングを実施したりしているのが特徴です。

とりわけ、次世代の自動車のために開発された「3Dモーター」や「高耐久セミアニリン本革」などの最先端技術がオープンイノベ―ションの事例として有名です。

参照:持続可能なモビリティ社会の実現に向けて

オープン・イノベーションとは?メリットや課題・問題点と導入事例も!

まとめ

オープンイノベーションは、市場のプロダクトライフサイクルの短期化や顧客ニーズの多様化に伴い、新しいイノベーションを創造するのには最適な手法です。

オープンイノベーションは、企業の成長だけではなく、これからの社会がより豊かに発展していくためのプロセスです。しかし日本の企業ではオープンイノベーションを推進する人材が不足している現状が課題となっています。

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